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中国の「まずくて高い」老舗肉まん屋が大炎上!国慶節でも一人負けのワケ
莫 邦富:作家・ジャーナリスト

国際・中国 莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見
2020.10.9 4:40 DIAMOND online

中国で9月と10月は稼ぎ時…なのに大失敗した老舗肉まん店

天津狗不理 新本店の紙袋(筆者撮影)

 エンドユーザーを対象にする中国のビジネス世界では、「金九銀十」という言い方がある。金の9月、銀の10月という意味だ。一説には、9月と10月は農作物の収穫期で、農耕社会では、収穫した農産品を販売して現金収入を手に入れ、最も消費意欲が強い時期なので、このような言い方が生まれたのだという。

 より今日的な解釈もある。9月や10月といえば、中秋の節句や中華人民共和国の建国の日である10月1日から大型連休もあり、季節的にも涼しくなってくる時期だ。人々は外出や旅行、外食する意欲が強くなるため、旅行、小売り、飲食などの業界にとっては旧正月の春節に匹敵するほどの稼ぎ時であるという。

 しかし、この大事な稼ぎ時に大きくこけてしまった中国の老舗レストランがある。天津市の肉まん専門店「狗不理(ごうぶり)」だ。日本ではそれほど知られていないが、1858年創立の同店は、中国では有名な肉まん専門の老舗(中国では老舗企業を「中華老字号」と呼ぶ)で、最も歴史のあるブランドの一つとして認知されている。

 ちなみに、店名の「狗不理」とは「犬も相手にしない」という意味。昔の中国では、へりくだったニックネームを子供に与えると、その子は丈夫に育つといわれ、犬など身近に存在する動物や物の呼び名を子供のニックネームにすることがあった。

 同社の創業者は、「狗子(日本語で犬の意味)」というニックネームで呼ばれていた。創業してから非常に繁盛して、肉まん作りと販売に精を出した創業者はそれ以外のことに一切構わず、呼ばれても応じなかった。そこから店は「狗不理」と呼ばれるようになったという。

 やがて清王朝の役人がこの狗不理肉まんを北京まで持ち帰り、西太后に食べてもらった。西太后がその美味を褒めたため、名声が一気に中国全土に広まり、 当時、魯迅と同じ時代の作家として知られた梁実秋も作品の中で狗不理肉まんのジューシーぶりを褒めたたえている。

 狗不理の肉まんは皮が薄く、肉餡(あん)がたっぷりと入っており、表面は18の折があるように作られているといわれる。貧しかった時代の中国では、B級グルメとして非常に珍重された。

 私は10代の頃、つまり文化大革命の時代、黒竜江省に飛ばされ、5年近く野良仕事をしていた。上海に帰省するとき、天津に途中下車してわざわざその天津の名物「狗不理肉まん」を買い求めに行ったほどだ。

2010年前後に全盛期を迎えた狗不理は一気に転落

 狗不理がもっとも輝いていた時期は2010年前後だ。同年の中国版紅白歌合戦ともいえる「春節晩会(春節文芸の夕べ)」で漫才の対象になり、数億人がその名を覚えた。

 2011年11月、中国政府が第3回国家級無形文化遺産リストに「狗不理肉まんの伝統的な手作り技術」を登録したため、 その4年後の2015年11月に、「狗不理」は株式上場に成功し、狗不理はまさに中国の肉まんの頂点に立った。

中国18省40以上の都市に70以上のフランチャイズチェーン店を展開、さらには「Go Believe」という英語名で海外にもビジネスを展開し、年間売上高は約1億元(約16億円)に達した。ただし、東京の池袋にある「狗不理」は、日本の天津飯店が経営する店舗で、その系統ではないことを断っておきたい。

 しかし、あまりにも高く設定された狗不理肉まんの値段はやがて大衆の批判の的になり、品質も守っていなかったため、消費者から敬遠されるようになった。北京の繁華街王府井にある狗不理王府井店では、蒸した肉まんを竹の籠に入れてくれるのだが、肉まんの価格は1つ40元前後から100元(約640~1600円)までで、習近平国家主席も利用したことのある肉まん専門店「慶豊包子店」の価格のほぼ6~12倍だ。

「朝食に8つの狗不理肉まんを買っただけで、合計270元(約4320円)もかかった。問題は味が全然だめで、街角で販売されている肉まんにも及ばなかった」という消費者の批判がその問題の核心をついている。

 こうしてほどなく、狗不理は急速に凋落の一途をたどった。地元の天津市民も、狗不理をお客さんに勧めなくなっている。日本の食べログに似た「大衆点評」というサイトでは、北京の狗不理王府井店は、評価点数がその地域の最低ラインに入る2.85点しか取れていない。

 今年の6月、創業162年を誇る狗不理は消費者からあまりにも敬遠されたため業績を作れず、やむなく証券市場での上場をやめた。

 泣き面に蜂とでもいうのか、そこでまた一大事件が起きた。

ネットで大炎上!さらなる転落

 9月8日、谷岳というネットグルメ評論家が、「王府井周辺で評価がほぼ最下位になっている狗不理は、一体どれだけ悪いのか」を体験し動画に上げるべく、同店を訪問し、2種類の肉まんを2籠選んだ。値段は合計100元(約1600円)。

 谷岳氏は「醤油漬け肉まんには本物の醤油漬け肉が入っておらず、とても脂っこかった。普通の肉まんも皮が厚く餡が少なかっただけでなく、歯に粘着しやすい」と問題点を指摘したうえ、最後に、「まずいと言ってもそんなにまずいわけではありません。この品質では20元(約320円)ぐらいが妥当ではないかと思いますが、100元で2籠では、ちょっと高すぎますね」と動画のなかで、締めくくった。

 ところが、この動画がインターネットにアップされて話題になったのを見た狗不理王府井店は、同10日、SNSを通して、当該動画は悪口中傷の発言で、すべて不正確な情報だと訴えた。そして、谷岳氏およびその動画をアップしたサイトに対して、権利侵害行為を直ちに停止し、国内の主流メディアで公開謝罪するよう要求すると同時に、北京市公安局に通報し、法的追及措置も取ると通告した。

 このニュースがネットにアップされるやいなや、ネット上では、狗不理の横柄な対応を批判するコメントが怒涛のように打ち寄せてきた。市場の反応を見て、狗不理天津本社は同15日、慌てて狗不理王府井店との契約関係を解除した。その数日後、狗不理王府井店はあっけなく閉店に追い込まれた。

 誇り高いはずの老舗の落日を見た思いがした。しかし、こうした問題を抱える老舗は狗不理だけではく、北京ダックで有名な「全聚徳」も狗不理とほとんど同じレベルの低い評価しか得られていない。

 中華レストランの老舗の数は、中華人民共和国が建国した当初、1万社以上もあったが、いまや1000社余りに減少している。現在、中国商務省が認定した中華老舗は計1128店で、平均160年以上の歴史があるが、そのうち約10%だけが発展しており、その他は例外なく深刻な経営危機に見舞われているという。

 余計な心配かもしれないが、日本の老舗レストランにも消費者に対して居丈高な姿勢を持つ店舗がある。それで経営は大丈夫なのだろうか。老婆心ながら、そんな心配もしている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)

https://diamond.jp/articles/-/250664?page=3
2020-10-09