北海道中国会

北海道と中国との文化交流、経済交流促進に努め、
北海道にいる華僑華人発展の支援及び北海道地域経済振興に寄与する
 
民間の力で中日関係を改善したい 在日中国人をキーワードに開かれたフォーラム
ダイヤモンド・オンライン 4月21日(木)17時15分配信

 日中関係が打開されないまま、推移している。沖縄県に駐在する自衛隊の某高官の表現を借りれば、一種の緊張の「高原状態」を維持している。高原は海抜が高い。ここでは緊張状態が高い水準を維持していることを指す。しかし、尖った峯が林立する状態ではない。高原の上には平らかな平野が広がっている。ここでは、緊張水準が高いが、その状態での平和状態が保たれていることを言う。その「高原状態」という表現は実に言い得て妙なりと思う。

 しかし、それで安心してはいけない。その日中関係を民間レベルで一歩、前進方向へ推すことはできないのか。それは日中関係に関心をもつ多くの人にとっては喫緊の課題であった。数ヵ月前に、交通大学法学院の院長、季衛東教授から相談を持ちかけられた。上海で上海自由貿易区と在日新華僑つまり在日中国人をキーワードにして、フォーラムを開催したい。こういう形で中国と日本とのパイプを少しでも太くしよう、と。私は即座に協力を約束した。その後、上海に一時帰国したのを利用して、季院長と打ち合わせを重ねてきた。

● 日中関係改善に動く新華僑

 実は、季院長は日本留学を経て、神戸大学で長年、教鞭もとっていた。2008年に中国に帰り、交通大学法学院に就職したのだ。その意味では、彼は新華僑の一員でもあったし、帰国したあとは、中国流で言えば、「海帰」派の一員、つまり帰国者族の一員となった。だから、日中関係を何とかできないのか、という気持ちが強い。一方、新華僑の一員でもあったから、上海市華僑連合会のメンバーにもなれた。海外の華僑とのパイプを保ち、活用することは上海市華僑連合会の役目だから、季院長の考えは上海市華僑連合会からも支持された。

 こうして交通大学と上海市華僑連合会の支持のもとで、9月下旬、上海交通大学華僑聯合会と在日華僑団体との共同開催によって、上海で中日華僑合作フォーラムが開かれた。今回のフォーラムの特色は、「新華僑」重視を前面に出し、帰国した新華僑と在日新華僑との共同作戦で、「国境や業種を超えた効果を生むべく、著名な日中の専門家・学者・企業家を招いてテーマに関する討議を行い、海外華僑のために技術移転および創業の交流プラットフォームを築き、国際的な対話を通じて日中両国間の経済法律協力を促進する」という目標を目指すところにある。

 こうしたイベントと活動を通して、新華僑という接着剤を通して中国と日本との関係をより緊密なものにしようとするのは、主催者と参加者の共通の目的でもある。

● 約40名の新華僑友人が参加

 フォーラムのテーマは「上海自由貿易区とアジア太平洋経済秩序のリファクタリング――新華僑多国籍ネットワークの要素市場連動における役割」という雄々しいものになっているが、平たく言えば、上海が推し進めている自由貿易区に在日新華僑としてどんなビジネスチャンスを見つけるのか、というものだ。

 新華僑が主体のフォーラムには、日本経営法友会、在上海日本企業商工会議所、JETRO上海事務所なども積極的に協力に動いた。莫邦富事務所も協力団体・機構に名を並べたため、筆者の私も参加者募集に汗を流した。普段から交流を密にしている友人たちに声をかけたところ、たちまち40名くらいの新華僑友人(一部は日本人)が参加を申し込んでくれた。

 そのうち、10名ほどは田義之会長が率いる北海道中国会のメンバーであった。今度のフォーラム参加は北海道中国会の中国デビューとも言える。こうして140名くらいの参加者の3分の1は私の呼びかけでこのフォーラムに参加したのである。現場では分かりやすくするため、「莫邦富団隊」こと「莫邦富ファミリー」と呼ばれていた。

 分科会のテーマなどからもこのフォーラムの趣旨の一部が透けて見えるので、その内容もここに紹介したい。

(1)上海自由貿易区と金融制度改革および広域経済との相互作用
(2)上海自由貿易区とアジア太平洋地域の知的所有権取引
(3)上海自由貿易区とサービス業革命および国際貿易
(4)上海自由貿易区と海外M&A

 それに合わせて、上海市自由貿易区管理委員会の関係者、上海市金融服務弁公室副主任、上海市知的所有権局局長などがフォーラムに駆けつけ、以上のテーマに沿ってスピーチをした。分科会の議論も予定していた時間を大幅にオーバーしたくらい、盛んだった。最終日の上海自由貿易区の一部である臨港新城新僑産業園の視察も参加者の関心を集めた。

 莫邦富ファミリーのメンバーたちは、フォーラムの合間を利用して、上海でいくつかのビジネスマッチング会議も開いた。上海の屈指の弁護士事務所である大成弁護士事務所の仲介で、寧波の海外医療サービス専門会社、Eコマース会社とのビジネス商談を行ったり、中国国内の出版社との出版企画会議、新華僑の経営によるレストランの新店舗の見学・体験、飲食・健康食品のビジネス可能性についての打ち合わせなどを行ったりした。多くの参加者から、いろいろと出会いができ、中国ビジネスについての新しい知識、新しい刺激を受け、挑戦したい気持ちを新たにした、といった感想を寄せてくれている。

● 新しいスタートラインに再び立つ思い

 フォーラムでは、上海市華僑聯合会の沈敏主席、上海市人民政府僑務弁公室の蔡建国副主任、日本華人教授会議の杜進代表に続いて、『新華僑』(河出書房新社)の著者である私も、新華僑の名付け親として壇上でスピーチさせていただいた。

 1993年に出版された『新華僑』の最後には、次のように書いてある。

 「(『新華僑』を執筆した1992年頃)新華僑がまだ流動的でその分布図はいまの段階ではなかなか描けない。
 
 ……1992年に、数ヵ月かかって東欧を主とするヨーロッパと旧ソ連で地球をかっぽする新華僑を取材し、怒涛のように新華僑としてドナウ川やライン川、ブルタバ川、ボルガ川に流れていく中国人の群れを目の当りにした私は、山東省の黄河入海口で見た黄河の、東へ東へと流れ、決して黄土高原に戻らない雄大な光景を思い出した。

 タンポポにたとえられる新華僑たちは、無名でか弱い存在のように見えるが、そのたくましさと生命力の強さで、やがて定住先の国々の春を飾る存在となるだろう。

 海に流れ込んで二度と母なる黄土高原に戻らない黄河の水のような新華僑だが、世界経済という海のなかを縦横無尽に流れる大きな海流となって、いつかは中国という大陸に海の幸を携えて押し寄せるに違いない。その時、中国の人々も世界の人々も、今日、中国に大量に投資する老華僑を語るような、尊敬した口調で彼らを語るに違いない。彼らは、今日のための存在というよりも、むしろ明日のための存在なのである。彼らの名は、新華僑」

 二十数年経ったいま、新華僑はすでに海外の華僑社会の主力となった。その意味では、在日新華僑をキーワードにした今度のフォーラムの開催を見て、感慨深いものがあった。当年の予測が見事な現実になってくれた感激もあったが、中日関係や中米関係をはじめ、中国と海外関係の構築を促進する力の一つになるまで成長した新華僑の逞しさと頼もしさへの感動もある。さらに、新華僑という人種を優しく育ててくれた日本を含む海外の生活環境への感謝の気持ちもいっぱいだった。中国と日本、中国と海外の国々との関係促進のために、新しいスタートラインに再び立つ思いもしている。

 最後に、今度のファーラムの成功に貢献した上海側の関係者の皆さん、そして莫邦富ファミリーのフォーラム参加に多大な時間と労力を費やした幹事の皆さん、ビジネスマッチングの成功に尽力した関係者の皆さんに、心からの謝意を表したい。

莫 邦富

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160421-00059948-diamond-soci&p=1
2016-04-22