中国から看護師の卵が大量にやってくる?日本の移民社会化が幕開けか
1/17(月) 6:01配信 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです Photo:PIXTA
● 日本はどんどん移民社会に…
コロナ禍の影響が続いている。新年早々、私は支援している企業のために、東京・上野の近くにある労働組合を訪れた。そこで、オフィスの一角に「移民社会20の提案」という小冊子がたくさん置かれていることに気が付いた。
冊子の冒頭に、次のように書かれていた。
「2019年4月、改定『出入国管理及び難民認定法(入管法)』等が施行され、在留資格『特定技能』による移住労働者の受け入れが始まりました。これは、いわゆる『単純労働者は受け入れない』としてきたこれまでの政府の方針を転換するもので、今後、より多くの移民が日本で働き、暮らすようになるでしょう」
筆者も2018年12月20日、本コラムで、「『中国人女工哀史』は解決したか、改正入管法でも積み残された企業側の責任」と題するリポートで、2019年4月から施行されることになった改正入管法を、「日本がいよいよ外国人労働者を実質的に受け入れる時代に突入したことを意味する」と書いた。
移民社会の存在を認めるかどうかはさておき、外国人単純労働者が日本社会にどんどん入っていく事実はもはや覆い隠せない現実となっている。農業や介護、外食など14業種が、外国人単純労働者を導入する最初の業種となったが、そのリストに加えてもらえるように働きかけているその他の業種も多い。
コロナ禍の影響で来日が足止めになっている外国人の数とその内訳を見れば、日本がすでにどれほど外国人労働者に依存しているのかは容易に想像ができる。
● 中国人の技能実習生は減少傾向だが、増える可能性も
技能実習生なども含む外国人労働者や留学生は来日する際、出入国在留管理庁(入管)から在留資格の事前認定を受ける必要がある。しかし、日本経済新聞によれば、新型コロナウイルスまん延防止の水際対策で来日できていない外国人が、昨年10月1日時点で約37万人に達している。その7割が、技能実習生や留学生だ。2020年1月以降に57万8000人に認定証明書を交付したが、うち37万1000人が来日できていない。
山東省青島で人材派遣を業務としている知り合いの会社も、すでに来日ビザを手に入れた中国人技能実習生が120名いるにもかかわらず、日本への出発はいまだにできない状態が続いているという。
新年に訪問した例の労働組合の責任者とは旧知の間柄だから、久しぶりの再会は自然に20年前との比較や思い出話になった。
「二十数年前、莫さんと一緒にはじめて千葉県銚子市を訪問したとき、自転車に乗って移動する研修生の大群が道路の向こうからやってくるのを見て、まるで中国のどこかの都市にいた錯覚を起こした。いまや僕が毎週訪れる相模湖周辺でも、このような光景が見られる。しかし、自転車に乗っているのはベトナムからの技能実習生だ」
中国人技能実習生の減少傾向については、私がすでに2008年時点で、予見していた。当時、私は「やがて中国は労働者輸入国になる」という内容の記事を発表し、中国が外国人労働者を輸入し始めている実情を紹介している。5年単位のスパンで中国人技能実習生の増減を見るなら、私は減少傾向がこれからも続くと思う。しかし、短期間的にそのトレンドを測るなら、部分的に増える可能性もある。その大きな原因はやはりコロナ禍の影響によるものだ。
● 今、中国人が日本に来るメリットは「敗者復活戦」
コロナ感染の対策として、中国は「ゼロ感染」路線にこだわっている。そのため、西安など新規感染都市では、偏りすぎたロックダウン政策が施行されている。そのため大きな経済的打撃を受けており、企業の相次ぐ倒産、人員削減現象が各地で広く見られる。
米系投資銀行ゴールドマン・サックス・グループは、今年の中国の経済成長率見通しを従来の4.8%から4.3%に引き下げた。感染力の強いオミクロン株の拡大で、新型コロナウイルス感染拡大を抑え込むのが一段と困難になっていることを理由に挙げている。
一方、こうした局面を打破しようとする中国政府も、一連の安定化対策を打ち出した。たとえば、昨年12月中旬に開かれた中央経済会議では、雇用の安定、金融の安定、貿易の安定、外資の安定、投資の安定、期待の安定を意味する「六つの安定」(中国語で「六稳」)と、住民雇用の保障、基本的民生の保障、市場主体の保障、食糧・エネルギー安全の保障、産業チェーン・サプライチェーン安定の保障、末端の行政運営の保障を指す「六つの保障」 (中国語では「六保」)といった対策の継続実施をあらためて確認した。「雇用優先政策の実施」「雇用は最大の民生」といった視点は、明らかに習近平国家主席の考えを表している。とにかく、雇用の安定化への関心は高い。
そんな中国での就職難の現象に押されて、就職口が見つからない中国国内の一部の労働者が、技能実習生や特別技能生として日本に流れてくる可能性が非常に大きい。
学歴社会の中国では、名門校に進学できない若者が出世コースから外される現象はかなり普遍化している。近年、日本の大学または専門学校の門をくぐったこうした若者は、日本留学に敗者復活戦の希望を懸けるケースがほとんどだ。技能実習生や特別技能生が日本に就職口を求める傾向が強まっているのも、こうしたプランを考えているからだ。
● 介護業界を志望する若い中国人が 日本にやってくる可能性が高い裏事情
私がよく知っている山東省の人材派遣会社は、コロナ禍の影響がまだ続く今でも、日本に渡って働く介護関係の人材を募集している。中国では、高齢者の身の回りの面倒を見る仕事が低く見られているため、若い女の子は目も向けないだろうと思い、募集対象を40歳以上の農村出身の中年女性に絞った。しかし、蓋を開けてみると、若い看護師のタマゴからの申し込みも相当あったという。
びっくりしてその真意を調べたら、ある事情が見えてきた。
急速に高齢化が進む中国では、これまでの成長路線の維持はもはや不可能と判断した不動産会社が、高級老人ホームなどの経営にかじを切った。そのため、各地に高級老人ホームが雨後の筍のように登場した。しかし、介護などの面でハイレベルのサービスを提供できる環境はまだ構築段階のケースが多い。その一因は、専門人材が非常に不足しているためだ。
看護学校に通う若者たちは、そこに自分たちの敗者復活戦のチャンスを見いだしているのだ。中国ではまだ新規産業である介護分野の専門人材になれば、出世コースにあらためて乗ることができるし、高所得も夢ではないと思っている。だから、日本に赴く介護人材の募集に手を挙げたのだ。
彼女たちは、日本で数年間、介護の現場で働いたら、その経歴とスキルが買われ、管理職として中国の老人ホームなどの福祉施設に迎えられる、とこれからの人生を組み立てているというわけだ。
実際、私のところに日本で中国の介護人材を育成するプロジェクトの企画書を送ってきた中国の企業もある。そこには、日本で介護の経歴とスキルを一通り習得した中国人の介護分野の人材を月給2万元(約34万円)のスタートで雇用する、といった内容も書き込まれている。この額は、中国企業で働く一般大卒の給料をはるかに上回っている。間違いなく敗者復活の実現だ。
これらの中国の介護人材は、おそらく初期段階では日本への定住を求めないだろう。しかし、日本での生活が長くなると、一部の人間がきっと移民として定住の道を選ぶかもしれない。
年明け、東京から遠く離れた過疎化の地方も訪ね、コロナ禍の影響で一段と複雑になった外国人人材の就職現場を歩き回ってみた。町おこしの事業を始めようとする外国人経営者や地元の支援者などの声を聞くことができた。
現場を見れば見るほど、日本は間違いなく移民社会になっていくだろうと思った。しかし、果たして理想的な移民社会が日本に構築できるのか。まだ読み切れないところが多く、予測困難だ。
帰りの車の前方に、冬にもかかわらず虹が空に懸かっているのを見た。希望を持たせてくれた虹の橋に勇気を得た思いで東京への帰途に就いた。
莫 邦富
https://news.yahoo.co.jp/articles/094116de42a5ed237864f73e86cb868758ae1915
写真はイメージです Photo:PIXTA
● 日本はどんどん移民社会に…
コロナ禍の影響が続いている。新年早々、私は支援している企業のために、東京・上野の近くにある労働組合を訪れた。そこで、オフィスの一角に「移民社会20の提案」という小冊子がたくさん置かれていることに気が付いた。
冊子の冒頭に、次のように書かれていた。
「2019年4月、改定『出入国管理及び難民認定法(入管法)』等が施行され、在留資格『特定技能』による移住労働者の受け入れが始まりました。これは、いわゆる『単純労働者は受け入れない』としてきたこれまでの政府の方針を転換するもので、今後、より多くの移民が日本で働き、暮らすようになるでしょう」
筆者も2018年12月20日、本コラムで、「『中国人女工哀史』は解決したか、改正入管法でも積み残された企業側の責任」と題するリポートで、2019年4月から施行されることになった改正入管法を、「日本がいよいよ外国人労働者を実質的に受け入れる時代に突入したことを意味する」と書いた。
移民社会の存在を認めるかどうかはさておき、外国人単純労働者が日本社会にどんどん入っていく事実はもはや覆い隠せない現実となっている。農業や介護、外食など14業種が、外国人単純労働者を導入する最初の業種となったが、そのリストに加えてもらえるように働きかけているその他の業種も多い。
コロナ禍の影響で来日が足止めになっている外国人の数とその内訳を見れば、日本がすでにどれほど外国人労働者に依存しているのかは容易に想像ができる。
● 中国人の技能実習生は減少傾向だが、増える可能性も
技能実習生なども含む外国人労働者や留学生は来日する際、出入国在留管理庁(入管)から在留資格の事前認定を受ける必要がある。しかし、日本経済新聞によれば、新型コロナウイルスまん延防止の水際対策で来日できていない外国人が、昨年10月1日時点で約37万人に達している。その7割が、技能実習生や留学生だ。2020年1月以降に57万8000人に認定証明書を交付したが、うち37万1000人が来日できていない。
山東省青島で人材派遣を業務としている知り合いの会社も、すでに来日ビザを手に入れた中国人技能実習生が120名いるにもかかわらず、日本への出発はいまだにできない状態が続いているという。
新年に訪問した例の労働組合の責任者とは旧知の間柄だから、久しぶりの再会は自然に20年前との比較や思い出話になった。
「二十数年前、莫さんと一緒にはじめて千葉県銚子市を訪問したとき、自転車に乗って移動する研修生の大群が道路の向こうからやってくるのを見て、まるで中国のどこかの都市にいた錯覚を起こした。いまや僕が毎週訪れる相模湖周辺でも、このような光景が見られる。しかし、自転車に乗っているのはベトナムからの技能実習生だ」
中国人技能実習生の減少傾向については、私がすでに2008年時点で、予見していた。当時、私は「やがて中国は労働者輸入国になる」という内容の記事を発表し、中国が外国人労働者を輸入し始めている実情を紹介している。5年単位のスパンで中国人技能実習生の増減を見るなら、私は減少傾向がこれからも続くと思う。しかし、短期間的にそのトレンドを測るなら、部分的に増える可能性もある。その大きな原因はやはりコロナ禍の影響によるものだ。
● 今、中国人が日本に来るメリットは「敗者復活戦」
コロナ感染の対策として、中国は「ゼロ感染」路線にこだわっている。そのため、西安など新規感染都市では、偏りすぎたロックダウン政策が施行されている。そのため大きな経済的打撃を受けており、企業の相次ぐ倒産、人員削減現象が各地で広く見られる。
米系投資銀行ゴールドマン・サックス・グループは、今年の中国の経済成長率見通しを従来の4.8%から4.3%に引き下げた。感染力の強いオミクロン株の拡大で、新型コロナウイルス感染拡大を抑え込むのが一段と困難になっていることを理由に挙げている。
一方、こうした局面を打破しようとする中国政府も、一連の安定化対策を打ち出した。たとえば、昨年12月中旬に開かれた中央経済会議では、雇用の安定、金融の安定、貿易の安定、外資の安定、投資の安定、期待の安定を意味する「六つの安定」(中国語で「六稳」)と、住民雇用の保障、基本的民生の保障、市場主体の保障、食糧・エネルギー安全の保障、産業チェーン・サプライチェーン安定の保障、末端の行政運営の保障を指す「六つの保障」 (中国語では「六保」)といった対策の継続実施をあらためて確認した。「雇用優先政策の実施」「雇用は最大の民生」といった視点は、明らかに習近平国家主席の考えを表している。とにかく、雇用の安定化への関心は高い。
そんな中国での就職難の現象に押されて、就職口が見つからない中国国内の一部の労働者が、技能実習生や特別技能生として日本に流れてくる可能性が非常に大きい。
学歴社会の中国では、名門校に進学できない若者が出世コースから外される現象はかなり普遍化している。近年、日本の大学または専門学校の門をくぐったこうした若者は、日本留学に敗者復活戦の希望を懸けるケースがほとんどだ。技能実習生や特別技能生が日本に就職口を求める傾向が強まっているのも、こうしたプランを考えているからだ。
● 介護業界を志望する若い中国人が 日本にやってくる可能性が高い裏事情
私がよく知っている山東省の人材派遣会社は、コロナ禍の影響がまだ続く今でも、日本に渡って働く介護関係の人材を募集している。中国では、高齢者の身の回りの面倒を見る仕事が低く見られているため、若い女の子は目も向けないだろうと思い、募集対象を40歳以上の農村出身の中年女性に絞った。しかし、蓋を開けてみると、若い看護師のタマゴからの申し込みも相当あったという。
びっくりしてその真意を調べたら、ある事情が見えてきた。
急速に高齢化が進む中国では、これまでの成長路線の維持はもはや不可能と判断した不動産会社が、高級老人ホームなどの経営にかじを切った。そのため、各地に高級老人ホームが雨後の筍のように登場した。しかし、介護などの面でハイレベルのサービスを提供できる環境はまだ構築段階のケースが多い。その一因は、専門人材が非常に不足しているためだ。
看護学校に通う若者たちは、そこに自分たちの敗者復活戦のチャンスを見いだしているのだ。中国ではまだ新規産業である介護分野の専門人材になれば、出世コースにあらためて乗ることができるし、高所得も夢ではないと思っている。だから、日本に赴く介護人材の募集に手を挙げたのだ。
彼女たちは、日本で数年間、介護の現場で働いたら、その経歴とスキルが買われ、管理職として中国の老人ホームなどの福祉施設に迎えられる、とこれからの人生を組み立てているというわけだ。
実際、私のところに日本で中国の介護人材を育成するプロジェクトの企画書を送ってきた中国の企業もある。そこには、日本で介護の経歴とスキルを一通り習得した中国人の介護分野の人材を月給2万元(約34万円)のスタートで雇用する、といった内容も書き込まれている。この額は、中国企業で働く一般大卒の給料をはるかに上回っている。間違いなく敗者復活の実現だ。
これらの中国の介護人材は、おそらく初期段階では日本への定住を求めないだろう。しかし、日本での生活が長くなると、一部の人間がきっと移民として定住の道を選ぶかもしれない。
年明け、東京から遠く離れた過疎化の地方も訪ね、コロナ禍の影響で一段と複雑になった外国人人材の就職現場を歩き回ってみた。町おこしの事業を始めようとする外国人経営者や地元の支援者などの声を聞くことができた。
現場を見れば見るほど、日本は間違いなく移民社会になっていくだろうと思った。しかし、果たして理想的な移民社会が日本に構築できるのか。まだ読み切れないところが多く、予測困難だ。
帰りの車の前方に、冬にもかかわらず虹が空に懸かっているのを見た。希望を持たせてくれた虹の橋に勇気を得た思いで東京への帰途に就いた。
莫 邦富
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