北海道中国会

北海道と中国との文化交流、経済交流促進に努め、
北海道にいる華僑華人発展の支援及び北海道地域経済振興に寄与する
 
莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見:中国企業の投資熱に応えられない日本企業がチャンスを無駄にしている
日本が中国に投資する時代から
中国が日本に投資する時代へ

 しばらく前、ある日系企業に就職した中国人の友人が訪れてきた。お茶を飲みながら雑談していたところ、真顔で次のような相談を持ち掛けられた。

「日本に進出したいと考えている中国企業があれば、ぜひ紹介してください。ある県から、企業を誘致したいという相談を受けていまして」

 これまで、こうした場面は中国でよく体験していた。ただ、紹介してくれという依頼主は中国の地方政府や開発区で、そのターゲット企業は日本の企業だった。それが今回は、日本の地方自治体が中国人を通して働き掛けてくるという初めての経験だった。

 これは、時代の流れの変化を感じた瞬間だった。考えてみれば、確かにこうした変化はすでに身の回りでも起きている。

ジェトロは
積極的に働き掛け

 一番、強く感じているのは、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の動きだ。確かに独立行政法人日本貿易振興機構法の第3条には、その設立の目的が書かれている。

「我が国の貿易の振興に関する事業を総合的かつ効率的に実施すること並びにアジア地域等の経済及びこれに関連する諸事情について基礎的かつ総合的な調査研究並びにその成果の普及を行い、もってこれらの地域との貿易の拡大及び経済協力の促進に寄与することを目的とする。」

 しかし、ジェトロといえば、「日本企業の海外進出を支援する機構」というイメージが強かった。それが近年、むしろ対日投資の総合的支援機関として、海外、特に中国からの投資を積極的に呼び込み、企業に対する誘致活動を行うとともに、日本拠点設立も熱心に支援している。

 ある上海の友人が日本に会社を設立した時、最初の半年間はジェトロが提供する施設にオフィスを置いていた。ジェトロというネームバリューのある看板をこういう形で利用できることは、無名の企業が日本でビジネス活動を行う際、大きな力となっているはずだ。

 これまで北京や上海などでイベントなどをやるとき、特別に要請しない限り、ジェトロの関係者は出てこなかった。しかし、ここ2年ぐらいは、少なくとも事務所の中国人職員が必ずと言ってもいいほど顔を出している。私が副会長を務めている上海市海聯会中日分会が地方視察するときも、ジェトロ上海事務所の主要責任者が積極的に参加している。

 日本への投資に関心を持ってもらうべく、ジェトロ北京では「日本ビジネスサロン」を1〜2ヵ月に1回のペースで開催している。弁護士事務所や会計士事務所などと、合同で開催する場合もある。その場におけるジェトロ北京事務所の中国人職員の活躍には、目を見張るものがあった。ここ2年弱で、その職員が参加したセミナーや展示会は110以上、アプローチした企業も2000社以上に上るほどだ。

中国経済の崩壊を垂れ流す
メディアは分かっていない

 私も知らず知らずのうちにその営業活動に巻き込まれている。例えば、拙著『鯛と羊』(海竜社)の中国語版が出版されたとき、「日本企業とビジネスするには、日中文化の違いを互いに理解すべきだ」という彼の提案で、北京の法律事務所で新書紹介会を開催し、日本とのビジネスや文化に関心を持つ人々を集めることに成功した。

 さらに、中国で最も広く使われているSNSである「微信(WECHAT)」など、最先端の技術をも上手に活用して、日本への投資を呼び掛けている。

 ジェトロ北京事務所では、「日本関連リソースのインテグレーター」という意味のグループ「日本資源整合群」を微信に作り、中国の「製造2025」や、日本の匠の精神などを話題にして、日本の技術やノウハウ、良質な商品といった中国人の関心をくすぐるような話題を提供して人気を集めている。現在、約1500名のメンバーがそのSNSのグループを通じて、日本に対する投資や、日中協力関連の情報などについて積極的にやりとりしている。

 まさに、主役と脇役がすっかり入れ替わった印象で、時代の変遷を肌で感じた。

 一方、日本国内に目を移すと、メディアは相変わらず中国経済が崩壊しているといったニュースを垂れ流しており、まるで“浦島太郎”の世界のよう。こうしたビジネスの最前線の変化が、理解されていない。

 先日、ある法律事務所の誘いを受けて、食事会に顔を出したら、嘆かわしい話を聞かされた。

「うちの中国人のお客さんが日本に会社を設立するため、ある大手銀行に口座を開設しに行ったら、大変な目に遭ってしまった。まず、日本語のできないそのお客さんのために、通訳を同行させたら、銀行の窓口の行員から『あなたは部外者だから、入ってはいけない』と個室から追い出された。それで、口座開設の手続きは挫折してしまった」という。

 そこで、「英語が使える行員がいる別の支店に行ってくれ」と言われたので向かったところ、その行員の英語力もたいしたレベルではなく、これまた口座を開設することができなかった。

 仕方なく、そのお客さんの会社で、日本語ができる部長に同行してもらって銀行に向かったところ、今度は「まるで、警察官から尋問室で問い詰められる犯罪者のような扱いを受けた。マネーロンダリング防止の確認作業とはいえ、行員の言葉遣いから態度まで警察官そのもの。これでは、まるで日本に投資しに来るなと言わんばかりだったわ」というのだ。

 似たような場面は、程度の差こそあれ私も体験したことがある。もちろん窓口の行員を責める気は毛頭ない。彼女らも上司の指示通りに動いていたに過ぎないからだ。

大国間で始まっている
投資誘致競争

 ただ、海外からの投資を呼び込みたいと本気で考えるならば、まずは、それに見合った環境を整える必要があると思う。日本は、いつまでも「元世界第2位の経済大国」という地位にあぐらをかいているようにしか見えない。だが、時代は変わり、今や日本も海外企業から積極的に投資してもらう必要があるにもかかわらずだ。

 米国への投資をかなり“高圧的”に外国企業に求めるトランプ米大統領の行動を思い起こしてほしい。中国も近々、海外企業に対する投資誘致戦略に新たな“火”をつけるだろう。

 企業に対する投資誘致は、今、大国間の新しい競争分野になりつつあることを、日本人は肝に銘じておく必要がある。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)

http://diamond.jp/articles/-/142178
2017-09-16